【プロフィール】
佐々木敬子 様
日本初のエストニア料理研究家であり、「エストニア料理屋さん」として料理・語学講座やHPやTwitterでの発信を行う。新卒でアパレルメーカーの営業に就職した後、CPUハードディスク代理店やITメーカー等の複数の企業にて転職を重ね、キャリアアップしてきた。その傍ら料理研究家としての活動を始め、2年半前に企業勤めをやめて以来は料理研究家としての活動に専念する。
【インタビュー】
―料理講座「エストニア料理屋さん」を始めたきっかけはなんですか。
初めからエストニア料理屋さんとして料理講座をしていた訳ではありません。
大学を卒業してまず、アパレルメーカーに就職しました。在学時に中国語を履修していたのですが、20年ほど前ですから当時は珍しく、重宝されて中国や台湾から商品、部品を仕入れる仕事を任されたりもしました。しかし、ずっとその会社にいた訳ではありません。何度か転職をして、キャリアアップをしました。CPUハードディスクを取り扱う代理店やITメーカーにも勤めました。会社に勤めていた時期は経済的な豊かさとそれなりの地位がありましたが、今思えば何か物足りなさがあった気がします。
その一方で働く楽しみもありました。海外出張の際に土着の料理を教えてもらうことです。現地の食材と調味料を使った料理は日本で味わうことのできないものばかりでした。私は持ち帰ったレシピ本を使って定期的に料理をするようになり、特にペナン島(マレーシア)のニョニャ料理に凝り始めました。そして、ニョニャ料理のイベントを開くようになりました。これが起業のきっかけです。
―初めは北欧ではなく南国の料理を扱っていたのですか。
はい笑。初めはバルト三国とはかけ離れた南国のニョニャ料理を扱っていました。しかし、イベントを始めて半年が過ぎたところで問題が生じます。夏は賑わっていたお客さんが冬にぱったり来なくなってしまったのです。南国の料理を冬に食べたいと思う人が少なかったのでしょう。ニョニャ料理は行き詰まってしまいました。
ここで、私はエストニア料理に鞍替えをすることにします。契機をつくったのは、私のエストニア人のパートナーです。彼が「エストニアのパンを食べたい」と言ったんです。でも、日本にはエストニアのパンが売られていないってご存知ですか。北欧のパンならあるんですけど、ライ麦パンって地域によって微妙に違うんですよ。一括りにされがちなバルト三国にもけっこう違いがあります。例えば、ラトビアはロシア人の割合が多いのでよりロシア的な仕上がりになっているのに対し、エストニアは土着の要素がより強いです。エストニアは北欧共通の塩味の効いた黒パンに糖の甘みも加えます。また、北欧の他の国よりも生地が黒く、ナッツや種が中に入っているという特徴もあります。
だから「北欧」のパンでは「エストニア」出身の私のパートナーは満足できなかったんですね。じゃあ私が作ろう、となってエストニア料理にも凝り始めたんです。ちなみに日本に住む私は、エストニアで使われている材料は手に入れられないので、エストニアのパンの甘さを糖蜜のシロップで表現しています。
余談ですが、日本人ってエストニアのこと全然知らないですけど、エストニア人は日本のアニメが大好きですし、現地では日本食も流行っているんですよ。特に寿司は人気で、みんな家で寿司を手作りするんです。だからスーパーでは、ワサビ・醤油・スシリース(日本米)・寿司酢・巻き簾が普通に売っています。
―起業に不安はありませんでしたか。
初めは不安で独立できませんでしたが、週末の料理活動を極めたいという思いが勝って2年半前に独立をしました。「どうしても辛くなったらやめればいい」という知人のアドバイスもあってのことです。
現在は会社勤めのときより収入は低いですが、会社に依存せず、自分の生活を育てていく感覚を味わえて気持ちが安定しています。そして、毎回違うお客様と接することができるので、会社向けのサービス業にはない楽しさがあってちっとも飽きません。
今が一番幸せです。
―現在の働き方を教えてください。
以前は月10回ほど料理教室をしておりましたが、コロナ後は月4-5回に減ってしまいました。オンラインで教室をしたこともありましたが、やはり対面のほうが良いですね。空いた時間はHP整備などにあて、現在はエストニア料理本の出版作業に追われています。私の活動は「エストニア料理屋さん」という名前のサイトやTwitterで見ることができます。
また、エストニア語講座も行っています。日本の大学でもまったく扱われていないくらいマイナーな言語ですので、珍しい講座だと思います。
書名:『旅するエストニア料理レシピ
〜The Estonian Home Cooking Recipes〜』
著者:佐々⽊敬⼦
ISBN:978-4867539903
―女性として働いてきて何か感じたことはありますか。
女性って働きづらいな、と会社勤めの20年間ずっと思っていました。例えばハイヒールですごく重たい段ボールを運ばされたり、初めて女性の営業職を任されたり、体力的にも精神的にもきつかったです。結局その認識を変えることはできませんでしたね。しかし、必ず誰かは自分の頑張りを認めていてくれて、それがすごく励みになりました。その誰かは必ずしも同僚ではなくて、お客さんだったこともありました。
―お仕事のうえで大切にされていることを教えてください。
一期一会を念頭に置いて、どんなときもベストを尽くすことです。ワークショップや講座に臨む際、このステージは1回きりしかないということを強く自身に言い聞かせています。歌舞伎役者マインドです。そしてお客様に、楽しかったな、お得だったな、と思ってもらえることが私にとっての幸せです。
―学生にメッセージをお願いします。
就活の中で困難が生じることもあると思いますが、必ずそれは皆さんの強さになります。私は就活で80社に落とされたという経験がありますが、それでも今こうして強く生きています。
そして社会に出た後は、ひとつのものに依存せず副業や趣味を命綱にして自分を守ってください。どんなに一生懸命働いてもおじゃんになってしまうことはあり、その際に他に支えるものがないと心身が壊れてしまうからです。仕事以外の楽しみも持って、人生を楽しんでください。