株式会社柳沢林業 原薫様

プロフィール

株式会社柳沢林業代表取締役。一般社団法人ソマミチ代表理事
1973年神奈川県川崎市生まれ。筑波大卒業後、木挽き職人に魅せられ1997年静岡市井川森林組合に就職し林業の道へ。狩猟免許、銃砲所持許可も井川時代に取得。1999年に長野県に移住し、2003年柳沢林業入社、2013年より現会長より事業承継をし、「信州松本平の豊かな風景をつくる」をコーポレートメッセージに掲げ、木材生産を中心に新たな林業の可能性を模索中。また、2017年一般社団法人ソマミチを設立し、山の多様な価値の創造と林業木材業の六次産業化を通して、「木を使う社会の仕組みづくり」を目指す。

 

社長に就任した経緯を教えてください

私が今代表を務めている柳沢林業は、80歳になる現会長が、個人事業として50年やられてきた会社です。70歳ごろに今後どうするかという相談がありました。会長は跡取りがおらず自分の代で辞めてしまうということも考えていたようです。しかし、重機や資材置き場を所有していて、地域の方との関係性も十分に構築できていたので、なんとかして引き継ぐことができたらと考えました。結果的に無事事業承継できたわけですが、その流れとしてはまず個人事業から法人化をし、1年間現会長が社長を務めたあと、私が社長に就任したという形です。ただ最初の相談からすんなりその流れになったわけでなく、私が一旦会社を辞めたことで少々時間がかかりました。なぜ会社を辞めたのか。実は、現場での怪我をきっかけに、ヨガに出会い、どうしても深めてみたくなってインストラクターの資格を取り、スタジオを開いたからです。諸事情ありスタジオは一年で閉めることになりましたが、ヨガを深めたことは、私が社長になるためにも必要なことだったのではないかと感じています。ヨガを通して、ぶれない軸や決断力が備わりました。

 

林業に従事したきっかけを教えてください。

元々は林業をやりたいとは考えていませんでした。

子供の頃からの夢は保育士さんや小学校の先生でしたが、高校生の時から環境問題に関心を抱き、大学では農学部に進学をしました。しかし、根っからの体育会系だったこともあり、白衣を着て実験室にこもるようなことは、やはり性に合いませんでした。ただ専攻とは全く関係なかったのですが、先輩の紹介で体育学部の野外教育研究室が主催しているこどもキャンプの手伝いをさせていただいたりしました。

就職活動の時期にまだ何をしたいのかが具体的になかったために、卒業後はアルバイト生活を始めたのですが、子どもの頃の夢と環境問題に取り組みたいということが相まって、小学校の教員として環境教育ができるのではないかと考え、教職の資格をとるために通信制の大学に入ります。ところが、その教職の勉強をしていた図書館で運命の本と出会ってしまいました。「木を読む(【著】林以一)」という木挽き職人の方の聞き書きの本でした。

環境問題といっても対象が大きすぎて捉え所がなく、とても漠然としていました。しかし、その本を読み、日本には自然との向き合い方や木の文化として伝わっている自然と人との生かし生かされるという関係性があったことに気がつきました。また本で語られる職人の生きざまがとてもかっこよく感じられ、教職の勉強を捨てて、自分も木の文化を継承する一人の職人になりたいと思ってしまったのです。

思い込みは人一倍でしたが、それとは裏腹に川崎生まれ川崎育ち。それまでほとんど木に触れたことがありません。とりあえず基本的な木工の技術を身につけようと岐阜県にあるオークビレッジのたくみ塾を訪ねます。想いには共感していただきましたが、とにもかくにも

2年間は朝から晩まで修行の毎日ということで、2年間の生活費は用意しないといけないことがわかります。そのためとりあえず、働いてお金をためることにしました。

そんなときに、大学の実習でお世話になった演習林の技官さんが、木工の世界に進むなら、林業の仕事を知っていても良いのではないかということで、森林組合の仕事を紹介してくださいました。ものすごい山奥の集落だったのですが、都会育ちだった私にとっては、逆に窓から見える景色が山しかないというそこでの暮らしがとても新鮮でした。そしてそこで出会った山の職人ともいうべき現場のじいちゃん達がとてもかっこよく、その知恵や技にも魅せられましたし、また体育会系の私にとっては森林の中で身体を動かす仕事がとても合っていたので、木工の学校に行くことはすっかり忘れ、そのまま林業の世界に入ることとなりました。

 

女性で得をしたこと、損をしたことを教えてください

林業では、造林という植林や下草刈り、枝打ちなどという木を育てるという仕事には、昔から多くの女性が従事していました。

ただ、私は育った木を収穫する素材生産(伐採や搬出)の担当になり、かなり珍しい状況だったと思います。しかも都会から大学を卒業した者が林業の世界に来ることも滅多になりたい時代。そのため、どう扱っていいかわからないと上司に言われました。ただし、一緒に仕事した現場のじいちゃんたち(林業現場には若い人がおらず、ほとんどが70歳以上でした)にとっては、孫ぐらいの娘が現場に来ることは物珍しいわけで、本当に孫みたいに可愛がっていただきました。ただ、私は仕事するからには中途半端は嫌なので、意欲的に仕事には取り組みました。その姿勢を見て、いろいろ教えてくださったのだと信じたいのですが、同年代の先輩の方たちからは「いいわなあ、女だと教えてもらえて。」など、僻みを言われました。当時は、女性も男性と同じように社会進出ということを言われ始めていたので、全般的にはすごく気を遣っていただいたと思います。

林業や山での暮らしには、安全祈願や山の恵みに感謝をする山の神という祭りがありのですが、山の神は女性だということで、女の人が参加をすると神様が妬むと言われ、参加を拒まれることはありました。ただ、山の神が女性であるという言われにもきっと意味があるだろうと思っていましたし、基本的には女性であることで嫌な思いをしたことはなかったと思います。

 

仕事をする上で大切にしていることはなんですか

男の人は縦社会の中で生きているに感じるのですが、なので、自身が尊敬する人からビシッと言われることなど、ある程度の厳しさが男性が多い組織には必要だなって思います。ただ、私はそこまでの厳しさで接する事がやっぱちょっと無理だったのでまあどちらかというと母性的な接し方を心がけてきました。その接し方に不安を感じたこともありますが、甘々な関係性になることなく、むしろ社員の主体性が引き出されているので、今では良かったのかなと感じています。

ただし「愛情」と「愛」を間違えてはいけないと思っていて、自分の感情からの「愛情」はエゴ的な接し方になってしまうので、常に「愛」を選択できるように自身を整えることは努力を続けています。これにはヨガをやっていたことがとても活きています。

また、自己肯定感が低いと、どれだけ褒めても自信につながりません。最終的には自身が自分を認めないと欠乏感は埋まらないので、私はあまり褒めたりはしないです。それよりも存在に対して感謝することを意識しています。そして小さな成功体験を積み上げ、少しづつ自信をつけて成長していくためにはどうしたらいいのかなというのを日々考えながら向き合ってはいます。

 

日々の過ごし方について教えてください

社長という立場になると1番大事なのは自分が整っていることだと考えています。ただ、社長に就任してから5年間ぐらいは休みもなくがむしゃらにやっていて、自分が1番動いていたんですね。でもそれだとうまくいかないことが多いんですね。私が動いてしまうのではなく、会社の成長は社員の成長ですから、やるべきはみんなの良いところを引き出して、どんどん伸ばしていくことなんですね。そしてそういうことは、私がいつでも余裕を持ってないとできないのです。社長が一番頑張っている会社ではダメなんですね。ただし、零細な林業会社の女社長。どうしても注目され、林業界に意欲的に取り組む人がいないこともあり、年々私の業務量は増えていきます。なので、どれだけ自分が忙しい状況の中でも余裕を持っていられるか。それが自分自身にとっても会社にとっても大切だと認識しております。なので、毎日朝晩ヨガや瞑想などを行なっています。また自然の中にいるとリセットされる部分があるので、週末はなるべく山歩きに出かけていますね。

 

どのような人と働きたいですか

1番成長する人は素直な人かなと思います。自分自身があまり人から言われたことに対して素直でなかったので余計にそう思いますし、社員の変化を見ていても、やはりそう思います。自分に信じるものがあってもいいのです。でも、人から何か学ぶ時には、一度それを置いといて、その人からどれだけ吸収できるかということが大切だと今は思います。

あとは元気な人ですね。なんでも前向きに捉えられる人とか。でもご縁があった人なので、どんな方ともお付き合いしたいと思います。ともに成長できるひとだと思いますので。

 

就活生へのメッセージをお願いします。

自分の「存在」に自信を持ってください。背伸びする必要はないと思います。大事なのは何ができるかということよりも、気持ちがあったり、自分を信じる力があったり、自分を肯定できること。そういう人は素直に耳を傾けられると思います。私が一緒に仕事をしてみたい感じる人は、そんな人です。

そしてかっこつける必要もなく、綺麗なこと言う必要もなく、格好悪くても、綺麗じゃなくても、自分の言葉で思いをぶつけてくれる人とは、時間がかかっても一緒に仕事をしたら楽しいだろうなという風に思います。

 

感想

ご自身のヨガから得られたものを、お仕事にも生かしていらっしゃることがとても素敵だと思いました。愛を持って人と接することで、さらに良い人間関係の構築や、経験ができると思いました。貴重なお時間の中でのインタビュー、誠にありがとうございました。

 

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