【プロフィール】
杉原麻美 様
早稲田大学第一文学部卒業後、集英社に入社。青年漫画誌を制作する第四編集部に6年在籍した後、映画情報誌「ROADSHOW」編集部に異動。同誌休刊に伴い、WEB制作の仕事を経て、広報部に配属、現在は広報部部長代理を務めている。
【インタビュー】
― 現在のキャリアに至る経緯を教えてください。
鳥取県米子市の出身です。インターネットなどはない時代で、高校生のころ、ファッションの情報は雑誌で学んでいました。当時読んでいたのは、現在でもある集英社の「non-no」などで、読んでいるうちに「世の中にはこんなにキラキラした素敵なものがあるのか」と憧れを抱くようになりました。大学で上京し、就職を考えたとき、雑誌には夢をもらったので、今度は自分のような境遇の地方の女の子たちに夢を届ける側に立ちたいと思い、「non-no」志望で集英社に入社いたしました。
しかしながら、なぜか実際に配属されたのは「週刊ヤングジャンプ」などの青年漫画誌を制作する、第四編集部でした。当人の希望より適性を優先して配属先を決めていた当時としても、男性漫画の部署に配属された女性は数少なく、かなり異例なことでしたし、志望していた女性誌の部署ではなかったので、大変驚きました。最初はがっかりしましたが、6年間青年漫画誌の編集を担当していく中で、憧れの漫画家の先生にお会いしたり、作品を一から作り上げたりと、貴重な経験を積ませて頂いたことは自分の財産となっています。特に映画コーナーの担当が大変楽しかった。
そのご縁か、後に「ROADSHOW」に異動になり、主にハリウッド映画の取材を13年間しました。スターに会ったり、アカデミー賞のレッドカーペットを歩いたりと様々な体験ができ、大きな刺激を受けました。そのまま「ROADSHOW」に骨を埋めたかったのですが、残念ながら休刊となってしまい、その後webでの仕事を経て広報部に異動し、現在に至ります。
広報部では、会社全体のコーポレート広報に加え、作品一つ一つのプロモートも行っています。また、作家の方や会社のイメージ、作品を守るためのリスクマネジメントも業務のうちです。バランスを取りながら仕事し、会社のイメージを保ち、かつアップさせてファンの方を増やしていくことを目標に活動しています。
― 一日のスケジュールを教えてください。
現在、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため、会社からは自宅勤務や時差通勤を推奨されております。私の場合、現在は10時から18時が時差通勤のシフトですが、広報部の責任者としてメディアからの取材や問い合わせに対応しなければならないので、完全に在宅勤務というわけにはいきません。スタッフはもう少し多く在宅勤務をしておりますが、私は週4日ほど出勤しています。仕事としては、プレスリリースの作成や、メディアからの電話を受けての取材対応、作家やスタッフの取材のセッティングなどです。
基本的には、イベント等がなければ土日がお休みで、休みの日は娘と一緒にご飯を食べて映画を観たり、一人でのんびりしたりしています。また、趣味として40年ほどクラシックバレエを習っており、週に3、4回は稽古があるので、土日のどちらかは踊ってますね(笑)。
― お仕事をしているうえで大切にしていることはなんですか?
広報部は、集英社の門番であると私は考えています。二次使用や取材、会社見学などの申請には、窓口として社のイメージを崩さないよう、丁寧にきちんと対応する。
一方でツイッターでの炎上や事件・トラブルが起きて取材が殺到した場合には、いったん押しとどめて、関連部署と連携して事情調査したうえで、正しい情報をお伝えして、きちんと報道いただけるようにする。作家、出版物、そして集英社のバリューが下がったりダメージを受けたりすることがないよう力を尽くしています。
そのためにも、同僚や部下とはいいチームワークを築けるように心がけています。集英社は制度でも社風でも女性が働きやすい職場だと思っていますが、男女ともに家族は大切ですので、仕事のために家庭を犠牲にしたりすることがないようにバックアップやサポートにも気を配っています。
― 今までお仕事をした中で、印象に残っているお仕事はありますか。
「ROADSHOW」時代に行った、アカデミー賞やゴールデングローブ賞の取材です。こういった映画の受賞式では、取材記者も入場の際はドレスを着てレッドカーペットを歩くんです。カメラを持ちながら待っていると、すぐ隣をレディ・ガガやニコール・キッドマンが通っていく。感激の経験をさせて頂いたなと思いました。
また、広報にきて一番嬉しかった仕事は、2019年に大英博物館で開催された「MANGA展」の日本国内向け広報をお手伝いできたことです。元々アニメや漫画が好きなオタクでもありますから(笑)、あの大英博物館で日本の漫画が取り上げられることにとても感動しました。キュレーターの方と仲良くなって、漫画のことを語り合いました。日本の文化として世界中で愛されている漫画の展覧会に、集英社の作品と自分が少しでも関われたというのはとても嬉しかったです。
― 女性であることで、損したことや得したことはありますか。
あまり女性差別が少ない会社だからだとは思いますが、女性だから損や得だと思ったことはなかったです。
もちろん、ハラスメントや差別があれば断固として声を上げなくてはならないですが、そうでなければ、自分の強みや弱みというのは、男女にあまり関係ないと思っているんです。男性職場で働いていた時は、体力的に男性に比べて弱い部分はもちろんありましたが、その代わりに私だからできるという長所や強みがあったはずなので、「女性として」の損得はあまり考えたことがありません。
― 一緒に働くなら、どんな人と働きたいですか。
何事にも積極的な人がいいですね。ただ、チームで働くことが多いので、がむしゃらに前に出るという意味ではなく、その中で自分がなすべき役割を、個性や能力にあわせて考えられる人と働きたいとも思います。
― 学生時代の自分にアドバイスするなら、どのようなアドバイスをしますか。
「そんなに真面目に考えなくていいよ」、ですね。そのときは無駄だとか、つまらないと思ったことでも、後では役に立ったりするので、どうすれば打開できるかと気張ってばかりいないで、今その時を楽しんだ方がいいよ、と言えたらと思います。
学生の時に限らず、ずっと肩に力を入れたまま生きてきたと、今振り返ってみると思います。でも、あれをやらなきゃ、これをやらなきゃと考えるだけでなく、そういうことを忘れて、たくさんあった自由な時間を楽しめばよかったのではないかな、と。最近、娘も社会人になって、私生活に一人の時間が作れる余裕ができたこともあり、そんなふうに思い始めました。自分の生き方を後悔しているわけではありませんが、若いときには、今あるものの良い部分にできるだけ目を向けると、楽しく過ごせると気づけていたらもっと良かったのではないかな、と思っております。
(C)宮川舞子